広島高等裁判所 昭和44年(ラ)41号 決定 1969年12月18日
抗告人(債権者) 株式会社西日本相互銀行
主文
原決定を取消す。
本件競落はこれを許さない。
理由
本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。
よつて按ずるに、競売物件である土地及びその地上建物が、ともに債務者の所有であつて、しかも右土地及び建物に対し一括して抵当権が設定せられている場合に、右抵当権実行の申立があれば競売裁判所は、一括競売を不当とする特段の事由がない限り一括競売の方法によるべきであつて、みだりに個別に競売すべきものではないと解するのが相当である。
蓋し競売制度の主たる目的は、抵当物件を公正な手続のもとでできるだけ高価に換価処分し、もつて、債権者及び債務者などの利益をはかるにあると考えられるところ、本件の場合のように、建物のみにつき競落を許すと法定地上権が成立するため、その宅地の競売価格が著しく減少する結果となり、前記制度の目的に背馳するに至るからである。
ところで本件の場合記録を精査するも原裁判所が個別競売を許容するにあたり、前記の如き一括競売を不当とする特段の事由を考慮した形跡は認められない。
そうだとすると本件建物のみの競落を許した原決定は違法であつて、取消しを免れない。
よつて主文のとおり決定する。
(裁判官 柚木淳 加藤宏 大石貢二)
(別紙)
抗告の趣旨
原決定を取消し更に相当の裁判を求める。
抗告の理由
一、抗告人は右債務者の所有に係る後記物件につき、昭和四十四年八月二日共同担保の抵当権実行を申立て、広島地方裁判所は同月四日競売手続開始決定を為し、該物件中(三)の建物のみが昭和四十四年十一月二十日競売に附され、同月二十一日右競落人に競落許可決定がなされたものである。
二、本件においては、(一)、(二)の敷地に(三)の建物が存在し、土地建物が有機的に結合された一体を為すことは明らかであり構造、機能等の諸点から客観的に観察し、これを個別に競売するより一括して競売した方が著しく高価に売却しうることは明白に予測され、なおかつ、建物のみの売得金をもつて債権者の債権を弁済し得ない事は明らかであるにかゝわらず、個別競売に附された事は利害関係人の利益を無視し不当である。
三、数個の競売物件が債務者の所有に属し、且抵当権も一括して設定せられたものである場合は、若しこれを分離して個々に競売するときは、一括競売する場合に比し、甚しい価格の低落を来し債権者並びに所有者等の利害関係人に大きな損害を与える結果となることが明白に予測される場合は競売制度が裁判所の関与によつて公正になるべく高価に抵当物を売却し、抵当債権を満足せしむることを目的とする制度であることから一括競売によるべきであるにもかかわらず之を個別競売に附した事は裁判所の適正なる裁量権の行使とは言えないものである。
四、本件において競落されたる物件は区分建物であるが、之は抵当外の他の所有者が存することにより権利関係が複雑となることを予期して、債務者会社倒産後競落建物の外壁と隣接土地との境界壁を利用して簡易な建物を建て(別添<省略>図面)構造変更を為し換価を困難ならしめたことは明らかである。更に申立に係る建物のみが競落されたる場合は複雑さは増大し残存土地については、紛争をまねくことを恐れて競売申立を為す者はなく価格が甚しく低落することは明らかである。
五、本件物件はすべてが同一の抵当権が設定されており、一括競売に附しても売得金の配当に支障を来す事はなく、抗告人は該物件に1.2.3.番の抵当権を有し、中3.番の抵当権をもつて申立を為したるも元本債権金壱千弐百万参千五百拾五円の債権を有しており、価格の低価を来たせば残存土地の評価が金壱千百万程度であることからして多大の損害を被むるにつき本抗告に及びます。